ok.p.147

帰郷

国境のトンネルを超えると 汽車はまだら雪の山肌に突き当たって 出稼ぎ帰りのおれたちを放り出す ホームに立っても 今日の日の言葉がないから 重く吐息してうつむいて歩き出すだけ おれたちはそこに帰って何があると言うのだ 泣きたくなるような 山脈のみどりはあっても もうそこには 若者達の胸を躍らせるものはない 融雪でにごった川べりに くずれかけた家があって そこへ干ダラのような母たちが居る 雪かきに疲れ果てた 雑巾のような妻たちが居て その懐で乾いて飛びはねる力エルのような子供たちが居るからなのか ああ 山肌にへばりつく わずかな棚田 今年も又一軒 老婆の屍の様な廃屋がとり壊されている ゴマのしぼりかすのような体をひきずって帰郷する谷間 そこはもう疲れて憩う場ではない 行く手をさえぎって立ちはだかる まだら雪の守門の山肌は おれたちの生存をさえ拒絶する
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