クロの闘病記


交代で背をさすって、手を握り、声をかけている 酸素マスクがゴム臭いのか顔をそむける
そのたびにマスクを動かす 点滴は1分間に10しずく 人間の赤ちゃんも同じ

心臓の鼓動が早い。それがゆっくりになってきていよいよだと覚悟する 「ごめんね もう一人にしないよ 
ずっといっしょにいるからね」と許しを請うた とつぜんギャアアーと泣いて立ち上がっておしっこをした 
それからばたっとくずれて横になった かっと目はあいていた

だんだん冷たくなっていくまでなでていた 立っていた毛が寝てビロードのようなてざわりになる 
目を閉じ口を閉じさせる 保冷剤を下に敷いて夜を越した もろはしさんの「般若心経絵本」を読む 
ぎゃーていぎゃーていはらぎゃーていはおぎゃあーとおかあさんをよぶこえだ

それまで部屋に連れてくると吠えていたホームズを息が途絶えてからやっとそばに連れてきた 
クロの足に鼻を付けて急にブルブル震えだした お骨になって帰ってきてからも神妙だ 

火葬場でお骨ひろいをした 歯も指の骨も箸でつまんだ 白くて小さくて可愛い骨だった 桐箱の半分もない


9月16日
新しいカメラで最初に撮ったのがクロだった。これが最期のスナップ写真になった。