1996年
新潟県の動向(横山真一、『自由民権』10町田市立自由民権資料館紀要)
 九六年度の県下の動向について研究会活動からみると、維新期研究会(年二回のペースで県内各地で開催)六月の例会で、横山真一が「第七大区の地租改正と自由民権運動」、竹田充氏が「平民主義者竹越与三郎における地域と国家」を報告した。横山はこれまで民権運動に大きな影響を与えてきたと考えられてきた地租改正反対運動が頸城地方を中心とする第七大区では存在しなかったことを実証し、鈴木昌司などの民権家と地租改正反対の見直しを迫った。竹田氏は、竹越与三郎の研究から少年民権家小松邦治郎と頸城地方の旧民権家が参加した明治三二年の「模擬国会」を発掘した。横山が報告で使った史料の一部は『吉川町史』第三巻(一九九六年三月)に掲載され、竹田氏の研究は修士論文『平民主義者竹越与三郎における地域と国家』(一九九六年二月)にまとめられた。一二月の例会では河西英通氏が「青年自由党と新潟県」、横山が「自由民権運動と新潟の青年」を報告した。河西氏はこれまで必ずしもその全貌が明らかでなかった青年自由党の組織の再検討を迫り、併せて県下の青年自由党員の動向を追求した。横山の報告は河西氏の研究を受けたもので、青年民権運動の視点からこれまで課題であった県下民権運動の分裂・急進化・保守化の解明を行おうとしたものである。河西氏の報告は、『新潟県立文書館研究紀要』第三号(一九九六年三月)にまとめられている。
 さて長年『新潟県史』に携わってこられた阿部恒久氏が、『近代日本地方政党史論』(芙蓉書房出版、一九九六年七月)をまとめられた。国会開設後に衰退していく政党運動・県下の政党運動の特質・未開拓な改進党の運動の解明をめざした同書は、今後の民権研究を考える上で避けて通ることのできない研究書になっている。特に「裏日本」化と政党運動の関連は、近代の新潟を考える上で有効な視点である。また民権運動に則して見ても、明治一〇年代の県会での民権家の動向や越佐同盟会を含めた二〇年代政治動向は依然として課題としてとして残されており、これらの問題を考える上で同書が必要になってこよう。
 今後の民権研究の新たな動向としては、ここ三年間にわたって行われてきた『黒埼町史』自由民権編発刊の動きを挙げることができる。同書は四〇〇に及ぶ山際七司文書を中心に、現在五人の研究者が時代毎に同史料の検討を行っている。九九年三月を目途に発刊する計画で、新たな自由民権像が求められている。



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