睡眠時無呼吸症候群

            

第一口腔外科                河野正己

 「昼間の無気力、突然の居眠り 警告!!急増するSAS(睡眠時無呼吸症候群)が事故を呼ぶ」
という記事が一般向けの科学雑誌にも載るようになった。最近何かと話題に登るいびき(鼾)
と睡眠時無呼吸症候群だが、その研究や治療が本院にて行われていることはあまり知られていない。
今回はこの疾患の概要と診断・治療について紹介する。

1 睡眠時無呼吸症候群とは

いびきの類は病気ではないと思っている人も多いと思う。事実いびきは直接の死因にはならないし、
欧米と違って日本では離婚の原因にもならない。しかし、いびきの害は真綿で首を絞めるように体を侵し、
心不全、心筋梗塞、脳血管障害による突然死を招いたり、睡眠障害による異常な睡魔が交通事故の原因と
なることもあるから侮れない。
さて、いびきは上気道の不完全閉塞で生じる雑音だが、時々完全な閉塞で窒息が生じる。この状態が
睡眠時無呼吸で、10秒以上継続する窒息が30回(/7時間)、または5回(/時間)以上生じると
睡眠時無呼吸症候群と診断される。
最近は、不完全閉塞による低換気も呼吸障害に含めて診断することが提唱され、この症候群は睡眠呼吸障害
と総称されることが多くなってきた。
この疾患の死亡率は治療を受けなかった場合には5年で8%、8年で22%1)と加速度的に増加する。
また、死亡原因で最も多い心筋梗塞のリスクはタバコの2倍2)にも達し、睡眠呼吸障害とは恐い病気なのである。

2 診断

本院では両側顎関節授動術を受けた患者を内科の協力で終夜睡眠ポリグラフ(PSG)を施行して診断
したのが最初である。PSGとは脳波、眼球運動、筋電図にて睡眠深度をモニタしながら、呼吸の減弱や停止、
経皮的酸素飽和度を観察する徹夜の検査である。その後、筆者の科研で診断機器を揃え、さらに病棟に整備
された脳波計にて本院でもPSGが可能となった。しかし、煩雑なPSGは中枢型を除外するには不可欠
であるが、術後患者や小児には使えないという欠点があるため、筆者らは経皮的酸素飽和度を用いた新たな
検査法を開発して臨床に応用している。
一方、咽頭気道の形態学的分析はCT、MRI、側方セファログラムなどで行っている研究者が多いが、
呼吸障害と相関する形態のパラメタは得られていない。筆者らは顎関節リウマチ患者が段階的に顎関節が
破壊されるのに従って呼吸障害が増強することに着目して顎関節リウマチ患者のセファログラムを分析した。
そして呼吸障害と最も相関する形態のパラメタを見つけ、これを平均咽頭気道径と名付けて使用している。
この他、軟口蓋長や舌の大きさについても診断して治療方針に役立てている。

3 治療

詰まり易い土管を想像して欲しい。中の泥を掃除して通り易くするのがいままでの治療、すなわち、
咽頭気道の過剰な軟組織を切除して気道を広げるのがいままでの限界であった。これより以前は気管切開
しかなかったのだから、その代表であるUPPPなどは画期的な手術であると思う。それに対し、
口腔外科手術は顎骨を移動させて咽頭気道を拡大する、すなわち土管を太くするもので、第3世代の手術
として期待されている。さらに、1994年にはいままで手術のできなかった顎関節破壊の症例に対しても
河野教授(一補綴)らと共同開発した新大型人工顎関節による顎関節の全置換術に成功し、これを
第4世代の手術として位置付けるに至った。
一方、UPPPなど第2世代の手術も本院では多く施行されている。UPPPとは口蓋垂軟口蓋咽頭形成術
でこの疾患では最も有名な手術であるが、標準の術式がないため筆者らは軟口蓋の切除量と治療効果、
後遺症(鼻咽腔閉鎖不全)を調査して、従来のUPPPではなく独自のUPP(口蓋垂軟口蓋形成術)を
教室の標準手術としている。
最後に、保存療法にはnasalCPAP(経鼻式持続陽圧呼吸)とPMA(補綴的下顎前突装置)
があるが、全ての点で後者が優勢である。しかし、PMAは口呼吸での気道抵抗を増加させて呼吸障害を
悪化することもあるので、より安全な形態を模索して教室の米沢が小林講師(一補綴)の協力でクラーク式
のPMAを用いて咽頭形態の変化と効果について調査を行っている。

参考文献

1)He,J. et al.:Chest,94,9-14,1988
2)Hung,J. et al.:Lancet,336,261-264,1990

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