ok.p.106 第四章 引き裂かれた家
夕暮 そこだけが聖域であるかのように 武蔵野の ビルの屋上からオルゴールが鳴ると 出稼ぎ場の作業が終る ホットして顔を上げると 街の屋根の向うの夕映え ああ 夕映えの向うは 吹雪く故郷よ ぞろぞろ ぞろぞろ 飯場へ向う重い足どり 寒風がほほをなぐりう すよごれたジャンパーの中の 虚しい胸を突き刺して行く 別の冬がくると現場も変る 見えぬクサリに繋がれた拷問 今年は地の底で 昨年は足の下からむし焼きにされる 百度の補装合材の上だった そして 別の年は 凍てつく嵐にさらされて 高い足場の上で身を縮めた もう夕映えも消えた街は かたく門を閉ざし 車は矢のように おれたちを押しのけて行く 果てしなく飢えた胸の中へ入り込んで来る街並の晩餐の 匂い ああ 吹雪の中の 我が家よ 妻よ 子供たちよ おれたちに何の罪があって引き裂かれなければならないのだ
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