ok.p.138 ビル
作業開始 疲れた体に重たくひびく昼さがりのサイレン 黒点げのスモッグに覆われた遠くのビル その屋上から一人の仲間がカエルのように落ちて死んだ 生命がけでよじのぼった足場の記憶が生々しい 完成された今はもう 目のフチを青くした都会の娘たちのように おれたちを拒絶しているビル 拒絶されることを知りながら おれたちはいくつのビルを建てたろう 平野をたち割って延びる新幹線の駅ビル 新幹線にそってスズランのようにつらなる団地のビル 街の煙突より高い工場地帯のビル おれたちは高い足場の上で 生命の手綱を寄せ合いながらビルを建てた クチビルを紅く染めた都会の夜の娘のハンドバックのようなビルを 今 おれたちの建てたビルの屋上から夕映えが消えると 街に紅や青のネオンが点滅する いくら呼びかけてもふり返ってもくれない ツメを紅く染めた都会の夜の娘のようなネオンが その時 うすいトタンの屋根とうすいベニヤ板で 囲まれた飯場の夢の中では 裏日本の谷間の村は おれたちの心の中のように 吹雪にけぶる
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