ok.p.33

いい部落

川ぞいに 水害の復旧工事の輸送道路が切られて 少しづつ 堤防の復旧工事が進められている 現場の焼け石に腰をおろして 乾いた空に向って 老人たちは夢を描き祈った 県知事も見に来てくれた おらが大蔵大臣も秘言をよこして いい所にしてくれると言って帰った リャカーしか通らない道だったが 自動車が通るようになると言う テレビも見られる−電話もついた 水害の復旧工事が終れば きっといいムラになる と 老人たちはいう だがな ジィさまたちよ 昔も みんな貧しかったが マチは気の遠くなるほど遠く 炭焼く煙をうたいながら のんびりくらしてたろ だがいまはなあ 見ろよ マチの文化はワラ屋根の中でのさばり 電化生活と機械化農業の召使いになった 父ちゃんたちは出稼ぎに追い出され 雪が消えて 田がひび割れているというのに まだ帰って来ないじゃないか 老人たちよ堤防の復旧工事が終った明日から 砂利と石ひろだらけの 山脈にへばりついた 魚のうろこのような小さな田の中へ立って何をしようというのか かつては 黒い俵の宝だった炭焼きも 今 石ころのように 急斜面をころがり落ちている 生活費はころがす雪だるまだ 大蔵大臣たちが 今 何をしようとしているか 老人たちよ知っているのか
HOME RETURN NEXT