追い出されれば

ようやく稲始末が終った夕食のあと 疲れた牛のように 炉端に横たわっているおれを見つめて 妻はひとりごとを言っている 来年の春は 長女が入学だし 長男も保育園へ入園だしなあ… 二人のカバンと服と それに水筒とズックと… 不安気に妻を見つめていた長女は言った お母さん おれが学校へ行く時はあんまり変な着物を 着てくんない おらやだで と おれは六十ワットの裸電球と すすけた天井を見つめていた 今年は一反五畝の休耕田を復活させたが 冷害で半作だった 四十三俵の供米 農協の通帳には赤い字で かなりの数字が書き込まれているはずだ 炭やきの収入はここ二三年カニの横バイ 妻が静岡のみかんもぎの出稼ぎで買ったと言う 洗濯機 嫁いで来た時持って来て何万枚のおしめをすすいだろうか あれから十年 こんどはおれが買ってやる番だと言う かい性なしと 追い出されれば 嫁は実家へ帰れるが おれはどこへいったらよいか 野宿するにも雪の中 汽車にでものって 清水トンネルを超えるより道がない
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