ok.p.73
 

土方人足の職場で

国境のトンネルを越えると そこからは 金と生命の交換所だ そこで待っているものは 大蛇が赤い口を開けて襲いかかって来るような 作業現場だ アバラ屋の飯場に 豚のように閉じ込められ 眠れない夜は 重い雪の下の 子供たちの寝顔がよみがえり 妻の匂いがよみがえり もだえ苦しむ夜 仲間たちよ出稼ぎ者よ 誰がすき好んで出稼ぎなんかするものか 米を作っても 生産費に追われ 牛を飼っても 飼料代に追われ そのうえに押し売りのような電化生活だ 村からはただうばうだけではないか 仲間たちよ出稼ぎ者よ 見てくれ 京浜地帯の あの ベラボーに高い ビルの林 その中で点減するネオン 目のフチを青く染めてうごめく あの妖怪なもの 町の屋根屋根をゆり動かして 人の眠りさえもうばいとってゆく 弾丸のような新幹線 そして 車のうなる東名高速道路は あれはいったい誰のものだ 仲間たちよ出稼ぎ者よ あの新幹線は 高速道路は ヘビがのたうちからみ合っているような立体交差道は 地下鉄は それはだれの手でできたのか 凍てつく高い足場の上で 地の底で 吹雪く故郷を思いながら 農民であることも 人間であることすらも拒否させられて けずり取られ しぼり取られた おれたちの血と肉の塊りではないか 仲間よ出稼ぎ者よ 世界第何位とか言われる 日本のこの繁栄ぶり それなのに おれたちのこの生活は 世界で何番目だと言えるのだ
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