ok.p.94 染色工場で
〈京都の染色工場出稼ぎ先にて〉 水洗工程の振り落ちに立って 流れ落ちて来る生地を点検する 真っ白い地に 紅いバラを浮かせた模様 紫の地に白い椿青い地にシブキを上げて巻き返る白い波 流れて来る それぞれの生地の模様が それぞれの人を思い浮かばせる 遠い日のわすれ得ぬ人 仕事場でぶっつかり合う娘さんたち 故郷の子供たちの顔 秋祭りの夜のひとときの 哀れにもあでやかな 村の母ちゃんたちの顔 おれは水洗の振り落ちで 流れて来る生地を点検する 仲間たちは スクリーンプリントで 口―ラー絵染場で 体中染色液によごれている 娘さんたちが美しくなるために 子供たちがよろこぶために 村の母ちゃんたちが若返るために 誰が体中染色液によごれて 汗を流すことを借しむ者が居よう でも それが店頭にならぶ時 おれたちには手の届かないものになってしまって いいのだろうか
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