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パレスチナ女性慈善家の殉死

パレスチナ女性慈善家の殉死


暴力の無限連鎖をいかに断ち切るか?

彼女に会うのは非常に沈痛なことだった。弔意を示すためだけにパレスチナ西岸最大都市のナーブルスの彼女の家に行ったのだが、あまりにもやつれていて私には言葉もなかった。慰めの言葉を掛けるのは私のはずなのに「How are you?」とかすかな微笑を浮かべて声を掛けたのは彼女のほうだった。母親を理不尽に失ったにもかかわらず、決して怒りを見せることはなかった。

何故、自宅のテラスで刺繍をしていた彼女の母親はイスラエル兵に射殺されたのか、この時私はすぐに理解できた。あらゆる状況証拠によって彼女の母親が標的だったことは明らかである。イスラエル軍のジープが彼女の自宅前で止まり、兵士が降り、ジープ後部の武器を取り出して発砲したのだ。彼女の母親は慈善活動家で、寛大さと貧しい人々への精力的な支援、そして平和を愛することでよく知られていた。そのような女性が何故標的になったのか?

娘さんは私のオフィスで働くチーフ・スタッフの一人であり、有能で非常に仕事熱心な人である。もちろん平和を愛し、パレスチナ伝統文化の保護活動家でもある。ナーブルスでの惨事が起きるほんの2日前に、私はナジャーハ大学で政治学を教えている彼女の弟に初めて会った。とても人柄の良い聡明な人物で、暖かくもてなしてくれた。私たちは政治問題について語り合って意気投合し、再び意見を交換しようと約束した。

実は私は彼女の母親に会ったことは一度もない。しかし、彼女について書かれたものを読んでも、彼女の素晴らしい娘と息子を見ても、こよなく平和を愛する本当の慈善家であったと強く確信できる。後に息子は母親を失った深い悲しみを表した詩を私に送ってくれた。その一節にはこのように記されていた。「あなたがいなければ、私には愛の国への道を知るすべがない」。

何故このような女性が標的になったのか? 邪悪な目的のため、パレスチナの人々を冒涜し、彼らの殺害を正当化し、家を壊し、社会を破壊するために、暴力の無限連鎖を必要とする何らかの勢力が存在するに違いない。イスラエル人とアラブ人の平和活動グループのデモが催涙ガスで阻止されたのも多分同じ理由によるものであろう。もしそうだとすれば、この勢力は影響力のある平和を愛する女性を抹殺しなければならないのだ。

彼女の母親が属していた慈善グループのある女性は、彼女の殉死後次のように語っている。「こんなにひどい殺害があっても、私も友人も摘みたての花だけを武器にイスラエル軍の戦車に向かって行進し続けるほかありません。」こうした平和を愛する人々が増えることだけによって戦争や暴力をなくすことが出来るのだろう。それには教育が是非とも必要である。例の勢力は嫌うとしても、パレスチナに平和をもたらすためには、教育によって彼女の母親のような人をもっと増やさなければならないのだ。

ある日私は、西岸のトールカレム市にあるエルサレム・オープン大学を訪れた。2,500名の学生を受け入れるにはキャンパスは小さすぎ、図書館には2,000冊の蔵書しかない。このような乏しい教育環境に加え、市街閉鎖により3割の学生が期末試験を欠席し、イスラエル軍の戦車が大学のすぐ前を走り、学生生活も脅かされていた。

パレスチナ問題が高度な解決方法を必要としていることは言うまでもない。世界がパレスチナを支援すべきことは言うまでもないことだが、最終的な高度な解決はパレスチナの人々の手にゆだねられるべきである。そのためのも教育が必要である。平和を愛するパレスチナの人々と彼らの教育を支援をすることこそ、世界がしなければならないことである。

在エルサレム国連開発計画・パレスチナ支援計画
テクニカルアドバイザー
霜垣和雄

 *** 原文は英語で書いたため、文体は敢えて翻訳調のままにしてあります。
彼女のお母さんの名前はShaden Abu Hijleh。ウェブサイトにはより詳しい情報が掲載されています。
パレスチナの大学図書館支援に関心のある方は、kazuo.shimogaki@undp.orgまでご連絡ください。

写真の説明

(1): 2,500名の学生を受け入れるには校舎はあまりにも小さい。
トールカレム市のエルサレム・オープン大学。
(2): 蔵書は2,000冊しかない。
トールカレム市のエルサレム・オープン大学の図書館。
(3): 脅かされる学生生活。
トールカレム市のエルサレム・オープン大学前を走り去るイスラエル軍の戦車。
大学校舎内から撮影。
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