1990年 9月17日 CHEMICAL&ENGINEERINGNEWS ケミカル アンド エンジニアリングニュース アメリカ化学学会雑誌

フッ素の生物学的な精査定量研究 ワシントンD.C.発 最近の国立毒性プログラム(NTP) による動物実験はフッ素が健康に全く安全だという証明書 を与えることに失敗した。今や、虫歯予防に広く使われているフッ素に対して、その扱いが 寛大過ぎるのではないのかという疑問が生じたのだ。また、政府の審議会は人間にとってのフ ッ素による危険性と利益を見積もる事、そして NTPの研究結果をより広い視点で検討する事を 約束した、 しかしながら、この約束には明らかに問題が生じはじめ、 最終報告も引き伸ばされ ている。 さらに、 米国議会の委員会は NTPの研究結果についての関心を示し始めている。 NTPの結論と結論への疑問  NTPの2年間の生物学的検討では、マウスとラットにフッ素濃度0,11,45そして79ppmのフッ化 ナトリウムの含まれた飲料水を使って行われた。 今年の春には NTPの職員と技術的な検討をす る審査員はこの研究でフッ化ナトリウムが雄のラットに骨肉腫という極めて希な形の骨の癌を 引き起こす「不確かな」 証拠を示したと結論した。  ワシントンD.C.のアメリカ科学委員会(ACS)国立学会のウイリアム L.マーカス氏は環境保 護局(EPA) の水道課の高級科学顧問である。 氏はフッ素は多分、 最高に発癌性のある化学物質 の次ぎの発癌性のある化学物質として 「ある程度の証拠」 のある種類の化学物質として分類さ れるべきだと語っている。 (NTPは化学物質をネズミを使った動物実験での発癌性試験の結果で 5段階に分けている。 明らかに発癌性の証拠のある物質、 ある程度の証拠のある物質、 不確か な証拠のある物質、 証拠のない物質そして不適当な実験結果) 実験動物の骨に蓄積したフッ素の量が少なすぎる マーカス氏は NTPの結論に疑問があると幾つもの根拠を示している。 まず第一に、 実験動物に飲料水に添加されて投与された低い又中程度のフッ素のレベルが人間 が EPAの設定した最高基準4ppmのフッ素を含んだ飲料水から摂取するフッ素の量より少なかっ たのではないのかという点である。 この実験でのフッ素量は動物実験では殆ど前例の無い程少 ないものである。 一般に動物に与えられる量は人間の摂取量の4~6倍なのである。 実験が終わった段階で、 高いレベルのフッ素を与えられた実験動物の骨に蓄積されたフッ素 の量(5300~6200ppm)が人間が4ppmの飲料水を飲んで少なくとも10歳になった時に骨に蓄積する フッ素量(7000ppmと報告されている) と比べ、より低いレベルであったということである。 「これはまず最初にこの『実験』の実験動物の骨は人間の骨より低いレベルの発癌性物質フッ 素の作用しか受けていないと思った」 とマーカス氏は語る。 コントロール・グループでも発癌 飼料の中のフッ素も発癌性発揮 「しかしこの報告の一番混乱しているのはコントロール・グループ(対照となる実験動物)に テスト・グループの実験動物と同じかそれ以上に癌が発生していたという事が繰り返し言及さ れている点である」とマーカス氏は強調している。 これまでの NTPの他の化学物質の実験では コントロール・グループ、 テスト・ グループ共に体重 1kg当たり毎日 0.7~1.2mgのフッ素を飼 料から摂取していた。 (実験動物ネズミの種類の飼料としてのフィッシュミールには高い濃度 のフッ素が含まれている)。 フッ素を使う実験では、実験動物は毎日体重 1kg当たり 0.2mgのフッ素をその飼料から摂取す ることになっている。 従って、 フッ素に関する実験の場合コントロール・ グループの動物も 実際にはフッ素を充分摂取しているということで,低濃度か中濃度のグループに位置付けられ 実験中に見つかる癌の重要性が評価の対象となってきたのだ。 このようにコントロール・ グループの発癌傾向はこの実験においてはしばしばある種の癌の 重要性を過小評価するのに利用されているという事だ。コントロール・ グループを投与群と の比較に決して用いられるべきではない、と語る。 さらに、コントロール・グループ(の0.5%)で見られた骨肉腫の発生をフッ素レベルに応じて フッ素の発癌グラフ上に描くと相関直線が見られる。 このような明確に投与量と反応曲線が 見られるということは通例見られないことだ、 これも又フッ素が骨肉腫の原因であることを 強く示しているということだ,と語る。 病変のスライド審査で「意図的な格下げ」  マーカス氏は、彼が特に心配しているのは NTPの研究を請け負い実際に実験をした請負人 が見いだした病変の審査に当たってを彼が「意図的な格下げ」と呼ぶ事が行われたのではな いのかということである。 NTPの研究の最終報告書は NTPの職員の手で書かれた、しかし 実験そのものはバテル・コロンブス研究所が NTPから請け負って実施されたのだ。 バテルの報告書は品質保証請負人に監査を受け、独立した病理学者のグループがその病理標 本を審査したのだ。その過程で、元々のバテル報告書の中の発癌性を示す病変が格下げされ たのだ。最初、肝臓胆管癌と呼ばれる希な形態の肝臓癌であるとの診断が後では肝臓芽細胞 腫を示していると言われ、別のタイプの極めてまれな悪性を示す病変も最終的には普通の肝 臓癌になっている。このような悪性を示す肝臓癌もコントロール・グループ、テスト・グルー プで見付かった普通の肝臓癌と一緒に扱われたとマーカス氏は語っている。  さらに、バテル報告書には書かれていた、フッ素の量が増加するに従って発生した口腔病変 は形成障害、異形成から変性へと格下げされている。 幾つかの他の肝臓癌は結局悪性ではな い病変へと分類されなおされている。彼がスライドの評価の意図的な格下げと呼ぶ事があっ た事で、彼はこの判定の取締役と水質基準局にメモを書いて EPAが独自に病理学者を集めて 委員会を設定してそこでこのスライドを再審査するように要求している。 NTPは意図的な格下げを否定・・・が? NTPの研究を担当したジョン R.ブッチャー氏は、 実験担当者の診断がその後の再審査で変更 されることは全く当たり前の事だと言う。 肝臓胆管癌は格下げされたのではなく、 それらの病 変の顕著な細胞のタイプに基づいて単に肝臓芽細胞腫に修正されただけだ、肝臓芽細胞腫は実際 もっと異常な病変なのだ。 後で、 肝臓芽細胞腫は肝臓癌であるということで、統計学的評価をす るために肝臓芽細胞腫も他の肝臓癌と一緒に扱っただけであると語る。 マーカス氏はNTPの研究でスライドを使った診断が後で変えられるということが珍しい事では ないという事には同意するが、しかしながら化学物質の量に応じて病的反応が起きているという 事を示唆する診断の殆ど全部を変更するという事は普通ではあり得ない事なのだ、と語る。 他の政府職員の多数もまた身元を明かさないようにと言ってこの雑誌ケミカル・エンジニアリ ングに彼らも今回の NTPの研究結果の結論には懸念を持っていると語っている。 彼らもまたフッ素を「ある程度(発癌性の)証拠のある」化学物質として分類するべきだと信じて いる。 というのも実験動物に発生した骨肉腫は極めて異常な形態の癌であるからである。 NTPの研究アメリカ議会で取り上げられるか 保健・厚生省の健康、科学環境秘書室付き補佐官フランク E.ヤングに任命された審議会は現在 フッ素による危険性と利益についての報告書を用意する過程にある。 伝えられるところによると その審議会の複数の審議委員はフッ素は NTPの研究の優先的な研究とすることに同意していると いうことだ。 初め、 この報告書は 6月に公表される予定であったのが現在は11月に延期されてい る。 EPA(環境保護局)は飲料水の基準4ppmの見直しを迫られている。 しかしこの見直しもHHS(保健・ 厚生省)の審議会の報告が完成するまでは開始されないだろう。 年内には政府施行の人間資源政府 間問題小委員会がニューヨーク選出民主党下院議員テッド・バイス氏が委員長として NTPの研究の 再検討をすることになるだろう。 文責 ベーテ・ハイルマン 翻訳 成田憲一(小見出し訳者追加) 用語解説 ケミカル&エンジニアリング・ニュース:会員数13万人のアメリカの化学スペシャリストの 学会アメリカ化学学会の週間の機関紙 骨肉腫:(osteosarcoma)10歳代の少年期に起こりやすい骨の癌で、男子は女子の2倍の 発生率である。 骨の癌の1割りを占める。 骨芽細胞が異常増殖を起こすのが原因である。 すねの骨の上端に起こることが多く、痛みや腫れ、熱感、骨折などて気づく。 抗癌剤による化学療法や放射線療法なども試みられているが、 進行の速いタイプの骨肉腫では肺に転移しやすいため、 速やかに足を切断する必要のあることが多い。(イミダス1988,集英社,p286) 扁平上皮癌(squamous cell carcinoma):組織学的に癌実質に重層扁平上皮への分化が 認められるもの、 口腔癌の大部分を占める。(歯科医学大事典、p2252医歯薬出版1989) 変性(degeneration):物質代謝障害により細胞内または細胞間に生理的に見られない物質 が出現したり、 生理的に見られる物質でも多量に出現したり、 また異常な部位に出現す る現象をいう。(同上p2247) 形成不全(hypoplasia):個体発生の過程で先天的な原因により臓器組織の形成が不完全に なった場合を減形成あるいは形成不全という。(同上p751) 化生(metaplasia):分化しきった組織細胞がほかの性状をもつ組織細胞に 変化する現象。(同上p410) ホームページ目次に戻る フッ素目次に戻る 次へ