fn.04-4.html フッ素ニュース&メモ
Fnews & Memorandum
6.ブライアン・マーチン論文
表6は、「フッ素研究」(14、1993)の秋庭賢司「書評と文献、資料 の紹介」から作成した。両者を比較検討すればフッ素推進機関(WHO,FDI,ADA)と の相違が判明する。
フィリピンを例に挙げよう。表5のFDI,ADAと表6を比較すると大きな食 い違いがある。
フィリピンは98年ADA調査で「◎フッ素含有水道水利用」国、90年FDI調査で 「●水道水フッ素化+▲天然フッ素水飲用」併用国である。日本口腔衛生学会のフ ッ素化給水人口の紹介によれば90年500万人(7%程度)84年300万人である。これに 対してブライアン・マーチンは、86年フッ素化給水人口約8,300人(0.014%)天然 フッ素(0.4~0.6ppm)水飲用人口が450万人との政府(厚生省)回答を報告している。
この大きな食い違いで考えられる解釈は、日本口腔衛生学会が出版物で わざわざ「天然フッ素地域を含まない(84,90年)」と指摘しているのであるが (またはFDIが)、天然フッ素水飲用人口をそのまま横流ししたのではないかとの 疑いである。
チリの場合も同様、69年から84年に増加しているが90年にかけて一気に 減少している。そして、下表のごとく天然フッ素水飲用人口に大きな変化がない とすれば、86年と90年の数値が近似していること、ADAが「●水道水フッ素化+ ▲天然フッ素水飲用」を込みにして「フッ素含有水利用」としていることから、 90年138万の数値も「▲天然フッ素水飲用人口」を含んだ数字の疑いが残る。 水道水フッ素化が事実上中止されたとも読めよう。
チリの給水・飲用人口 (表1、6より作成)
90年 | 86年 | 84年 | 69年 | |
フッ素化給水人口 天然フッ素水飲用人口 | 138万 | 126万 130万 | 434万 | 330万 |
7.世界のフッ素化―18ヵ国―
表7 主要水道水フッ素化国給水人口 (万人)
日本での水道水フッ素化を FDI:1990
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給水人口100万人以上18ヵ国を掲 注)給水率:1998年各国人口で計算
載した。
台湾は、86年に高級官僚特別地区
のフッ素化を中止した。日本フッ素研究会との共同調査によって被害を認 識してのことである。従って、簡単に再開したとは考えにくい。実施されている 場合でも、給水率は2.7%前後である。
第一に、表5のWHOとFDI 並びに表7の間に著しい数字上の乖離がある ことである。
表5の91年WHO1億7,000 万と表7の28ヵ国総合計2億7,382万人では 1億人の開き がある。推進学者が論文の中で示す全体の数字(3億人以上)と 世界各国のフッ素化給水人口の総計(1億7,000万など)とどちらが正しいのだ ろうか。どちらも事実から遠い可能性もある。マスコミを通じて大きな数字だけ が真実味を持って一人歩きしている。
第二に、マーチンの指摘と兼ね合わせたとき、フィリピンとチリは疑 問型で水道水フッ素化国に参入できない。
表7以外の9ヵ国の数値は次のごとくである。括弧内の数値は前者が 給水人口、後者が給水率の程度を示す。フィジー(30万、40%) パナマ(51万、22%)リビヤ(40万、10%)パラグアイ (35万、8%)パプア・ニューギニア(10.2万、2.6%)ペルー(50万、2%) 大韓民国(41万、1%)スペイン(20万、0.5%)ポーランド(8万、0.2%)
第三に、FDIの数字を前提にして日本のフッ素応用推進学者が主張し ている例にならって、給水率5%以上の国を水道水フッ素化国と判断すると、 表7のアルゼンチン、メキシコ、フィリピン、チリを除いた14ヵ国と 上記下線4ヵ国で世界のフッ素化国は18ヵ国と数えられる。
第四に、給水人口の多さでアルゼンチン、メキシコとペルー、 韓国を加えたとしても22ヵ国がフッ素化されている数である。
おわりに
ADA「56ヵ国」説は、「フッ素含有水道水利用」なる造語によって、 従来の水道水「フッ素添加」の概念を希釈化させることで導いた作為ある数値 である。その背景には、フッ素を巡る有害性の証明と水道水フッ素化の世界的 退潮とに危機感を持つアメリカ国内のフッ素応用推進勢力の焦りがある。世界 とアメリカ国内では、むし歯予防へのフッ素応用による全体的危険性が新たな 攻防局面を迎えている。フッ素並びにフッ素化合物の発癌性は、論駁の余地が ないほど証明された。そして、現在はフッ素とその化合物の脳機能への有害な 作用、第二環境ホルモンの疑いとしてのフッ素、並びに神経伝達物質としての 撹乱研究が一つの流れとなり始めている。フッ素の有害性を論証する1990年代 以降の精力的な研究発表は、弾圧・隠蔽する政治的圧力が弱化したことにある。
50有余年のフッ素論争は、各国市民の闘いがあれば21世紀初頭で決着 を付けられるだろう。それは、「また近年大発展しているフッ素化学でも、 将来(塩素化学、環境ホルモンと)同じ様な負の遺産が発生しなければよいが との危惧をします。」(大前和幸、慶応大、「産業衛生学雑誌」41巻、1999年) との新たな闘いの始まりでもある。
本稿ではADAの「フッ素含有水道水利用56ヵ国」を批判し、水道水 フッ素化国が実質18ヵ国であることを示した。
(注 1) 「表1;出典」2、4)に記載されている表「世界各国におけるフッ化物応用状況」 は、FDI(国際歯科連盟)の1984年と1990年調査を合体した同一の表である。水 道水フッ化物添加は、FDIの「1984年の報告に、1990年の報告を重ねると、38ヵ 国に普及しているものと見積もられている。」(小林清吾「水道水フッ化物添加」133p、 表1出典4の@)と述べている。FDIは、アメリカの強い影響下にある。
(注 2) 山下:「ADA米国歯科医師会1998年」には、香港(中国に返還)・プエルトリコ (米国統治自治領)を国として数え「56ヶ国」と主張する。 水道水フッ素添加推 進キャンペーンを行うマスコミ記者はこの数字を無批判に掲載する。
(注 3) 1990年FDIは、1984年記載のプエルトリコ(米国統治自治領)・オランダ領アン テル(カリブ海)を再掲し国の数に加えている。
(注 4) 山下、川崎浩二(長崎大歯学部予防歯科)の「水道水フッ素化を理解するために 質問と解答とその解説」(http://www.sun-net.ne.jp/ad/fusso/nitif1.htm)は、「アメリカ歯 科医師会編最新のFluoridation Facts(1999年版)」の翻訳という。その「はじめに」 に次の記述がある。水道水フッ素化は「約60ヶ国、3億6千万人以上。米国では 1万の地域の1 億4千5百万人」とある。
(注 5) フランスのサン・ルイ市は、フッ素化されているスイスのバーゼル市から水供給 を受けている。「表1の出典」5)の記載による。1998年ADA調査は、スイスがフ ッ素化を中止したとする。従って、サン・ルイ市もフッ素添加水道水は供給されて いないことになる。
[表1の出典]
1)1998年、山下文夫「至適濃度のフッ素を含んだ水道水を利用している国々と食塩にフッ 素を添加している国々」(http://www.sun-net.ne.jp/ad/fusso/nitif28.htm)の「フッ素含 有水道水を利用している国々(56ヶ国)」
Fluoridation Facts Reference(参照):British Fluoridation Society. Optimal water fluoridation: status worldwide. Liverpool;May 1998.(注:ADA米国歯科医師会Jane McGinley情報)
2)1994年、日本口腔衛生学会 フッ素研究部会『口腔保健のためのフッ化物応用ガイドブ ック』口腔保健協会、1994.2.25、14p,16p
3)1993年、高橋晄正「半世紀を迎えたアメリカ歯学提唱“フッ素化むし歯予防戦略”の批 判」及び秋庭賢司「書評と、資料の紹介」(「フッ素研究」14、1993.11、6p、127~136p)
4)1984・90年、 FDI(Basic Fact Sheete、Basic Fact)
@ 小林清吾「水道水フッ化物添加」(日本口腔衛生学会 フッ化物応用研究委員会 編『フッ化物応用と健康』口腔保健協会、1998.6.5、134p,133p)
A 飯塚喜一・境脩・堀井欣一『これからのむし歯予防』学研書院、1993.11.15、18p
5)1986年、秋庭賢司「書評と文献、資料の紹介」(同上、Brian Martinの「Scientific knowledge in controversy」1991で「付録(APPENDIX)・世界のフッ素応用」の翻訳である)
6)1978年、W・ホーフェルSSO代表「ERO加盟諸国圏内の集団的フッ化措置の状況一覧 (1987年4月)」(「フッ素研究」2、1981.6、76~79p)
7)1969年、WHO:新潟県歯科衛生協会『フッ素洗口の手引』1979.3.1、5p
[表6の文献]
1)新潟県歯科衛生協会;『フッ素洗口の手引』5p、79.3.1
2)新潟県・県歯科医師会・他;『フッ素洗口』34p、82.3
3)新潟県・県歯科医師会・他;『フッ素の洗口』4p、84.5
4)日本口腔衛生学会=フッ素研究部会『集団を対象としたフッ化物局所応用マニュアル』 口腔保健協会、1986.9.19、8~9p
5)新潟県・県歯科医師会・県教育委員会・他;『フッ素の洗口』59p、91.7
6)飯塚喜一・境脩・堀井欣一『これからのむし歯予防』学健書院、1993.11.15、19p,21p
7)日本口腔衛生学会 フッ素研究部会『口腔保健のためのフッ化物局所応用ガイドブック』 口腔保健協会、1994.2.25、15~17p
8)新潟県・県歯科医師会・県教育委員会・他;『フッ素の洗口』4p,53p、94.3
9) 高江洲義矩監修『フッ化物と口腔保健』一世出版、1995.10.25、3p 、25p(Murray JJ, Rugg-Gunn AJ, Jenkins GN, Fluorides in caries prevention. Oxford, Wright, 1991. )
10)高橋晄正「半世紀を迎えたアメリカ歯学提唱“フッ素化むし歯予防戦略”の批判」 (「フッ素研究」14、1993.11、6頁)(高橋晄正『あぶない!「フッ素によるむし歯予防」Q &A』労働教育センタ−、95.12.20、217~218p)
11)山下文夫「至適濃度のフッ素を含んだ水道水を利用している国々と食塩にフッ素を添加 している国々」1p、http://www.sun-net.ne.jp/ad/fusso/nitif28.htm
12)日本口腔衛生学会 フッ化物応用研究委員会『フッ化物応用と健康』口腔保健協会、 1998.6.5、132~135p
13)日本歯科医学会医療環境問題検討委員会フッ化物検討部会部会長須田立雄「「フッ化物 応用についての総合的な見解」に関する答申」1999.11.1、11p
14)山下文夫訳『水道水フッ素化を理解するために質問と解答とその解説』(アメリカ歯科 医師会編「1999年版 Fluoridation Facts」)3p、41p、http://www.sun-net.ne.jp/ad/fusso/nitif1.htm
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