ok.p.126

眠れない夜

夜の底の 冷たい飯場のフトンの中 重い雪の下の子供たちの寝顔がよみがえる 炬燵の上で 赤い借金の帳尻を見つめる 妻の後姿がよみがえる 夜の底の 冷たい飯場のフトンの中へよみがえる めったに書かない妻からの便り 自分の家だけではない 学校と公民館と三本のムラの橋の雪かきで 腕が痛くて眠れないと言う ムラのこと 姑とのこと 子供のこと 雪の中 わたし一人ではどうしてよいかわからなくなると言う 子供たちからの便りも入っている 五歳の長女の ゴマ塩ヒゲの私の似顔絵だ 頭の上の四つの紅い太陽は? 三歳半の長男 画面くまなく心ゆくまでぬりつぶされた あの怖いような 赤と黒紫の配色紙面 をはみ出しているむちゃくちゃな丸と線 見つめ合うことによって知り合えるのです 触れ合うことによって深まるのです うばい合うことによって高まるのです でも 何時も冬になると引き離される半年間 わたしは織女星ではないのです わたしたちに何の罪があると言うのだろう 夜の底の 冷たい飯場のフトンの中へよみがえる 妻の匂いがよみがえる 子供たちのやわらかい重みがよみがえる 山のうさぎだって鳥だって 時が来るまで親子が離れないと言うのに 出稼ぎ農民だけが 何故 自然の摂理を破らねばならないのだ
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