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渡り鳥のように

汽車はようやく都会の雑踏からぬけ出した ここは関東平野の畑の中 農夫たちはみんなどこへ行ってしまったのか 青い麦畑だけ目にしみる 沿線の畑の中へ割り込んだ 巨大な黒い建物 車窓の夢を遮断して くずれかけた農家の屋根の陽をうばって立つ あれはいったい何だろう 汽車は走りつづける ボロ切れのように疲れ果てた 出稼ぎ帰りのおれたちをつめて 汽車は走り続ける 仲間たちはみなどこへ行って 帰る ただそれだけ 遠く赤城山が真向いになり すそ野に麦畑が青くひろがる だがそこにも農夫たちの影は見えない 汽車は走り続ける 白いキバをむき出した 谷川岳 国境のトンネルを越えると そこは 山はだがおおいかぶさる絶望の淵 汽車はその山はだに突き当っておれたちを放り出すのだ 汽車は走り続ける 今日の日の言葉が無いから 焼酎をあおって 窓辺に寄りかかって眠りこけるだけのおれたちは いったい何なのだろうか
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