ok.p.156 六つの瞳
ぎゅうぎゅう詰めの汽車で 命がけで帰って来たというのに お正月の三日間は あっと言う間に過ぎてしまった 妻もおれも 子供たちも お互いにうばい果せない虚しさ でも 明日はもう 再び出稼ぎに出なければならない 正月気分のかすかに残る 奥の間のコタツの中で向き合っては ただ 黙っておれを見つめる老いた父と母 ずっしりと 屋根の雪が重い 玄関で向き合う 妻や子とおれ おれは言葉が無いまま トランクを手に背を向けた 外は吹雪の向い風 おれの背を見つめる 六つの瞳
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