ok.p.39 願い−えらい人のくれるもの
おれたちの住まいは水害にたたかれた 水害の惨状を見に 村長が来た 村会議員が来た 県知事も来た 県会議員も来た 代議士たちもやって来た それらのえらい人たちは 名前を大きく書いた酒を置いて行った おれも来たんだぞ と言う代りに あいさつは どこかを向いて していった ずぶぬれになり 堤防の応急処置に 疲れ果てて 青ざめたみんなは こわれた堤防だけは 何とかお願いします と そのえらい人たちに頭を下げた しかし おれたちは あまりに願いが 少ないではないか 今まで 山の中の このおれたちの部落は 大根のしっぽのように 政治から このえらい人たちから 見捨てられていたんだ それだから こんな水で たあいもなく洗された 仲人たちが 娘に会って 二分へ と 言えば その次は 聞かなくとよい 水害地の 貧乏部落の 二分では なかったか と それなのに 流された堤防の復旧だけで どうなると言うのか おれたちは 嫁がほしい 田がほしい そして耕転機を 飛ばせる農道もほしいのだ 〈注〉二分とは,作者の住む水害地の山奥の部落名
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