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去る者残る者
それは昨日のようであった
雲の重圧が峰に流れて
谷間に嵐が吹きおろした時
君は叫んだ
貧しく忘れられて行く
この村を
おれたちが守らずに誰が守るか
と
そして
4Hクラブが生れた
政治クラブが出来た
君は村の青年団長だった
だが
雲の重圧が谷間をおおい
木枯しがうなりを立てて葉をちぎり
舞い出した嵐の中で
仲間たちは
肩をすくめて その叫びを止めた
村は今
離村のあらしの中だ
君は町の一角に
小さな ソバ屋を開店した
思えば
時は昨日のように流れた
青年団の会合の帰途
晩秋の村上の橋の上で
霜が星に逆光する時
君は言葉をなげ出した
おれは明日から町へ出る
と
おれははげしく反論した
村をすてて町へ出る
君はうらぎりものだ
と
口調もはげしく
君は反論して来た
わずか二十俵の米と
先の暗い炭焼きで
どうして希望が持てると言うのだ
嫁の来てさえないではないか
君の言葉は
明日からの
おれの生活を保障する力があるのか
と
おれは返す言葉が無くなって
二人が背を向け合った時は
もう
白銀の守門山頂は明け始めていた
君は去った
思えば時は昨日のように流れた
おれは今
重い足どりで
とうとう君の
ソバ屋へ立ち寄った
君には美しい妻がいた
まだ開店祝の匂いの残る
小さなソバ屋は
お客のたえ間がなく
君は妻と二人でうれしい悲鳴をあげていた
うちひしがれて
おれは酒を飲み
雲の重なる冬枯れの谷間へ
重い足どりで
帰っていった