ok.p.4
 

<この詩集に寄せる言葉>

                    井上光晴 地響きの詩  おれのあるだけの汗を、と人間がうめくと き、きっと地響きがおきよう。  この詩集には、村と、そのまた山奥の村の 深い雪にともるひとつのあかりがさし出され ており、出稼ぎの哀愁もまた、ふかい沈黙に 閉されてしまうのだ。  染色工場で、土方人足の職場で、かあちゃ んを想う男たちのひたすらな心こそ、おそら く日本のはてしなき叙情であろう。生地のま まの胸に宿る言葉の、なんとあふれているこ とか。それこそが、俺とおまえの悲しみなの である。  お母さんおれが学校へ行く時はあんま り変な着物を着てくんない おらやだで  魚の鱗のような段々畑にはいっくばるのは 誰か、腐った藁のにおいをさせている母ちゃ んたち、とこの詩人は叫び、否と私は言う。 村と出稼ぎの詩人よ、うたに余分の旋律は もういるまい。
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