ok.p.49
 

この手で拓いた大地よ

減反だ 買入れ制限だ と 人々が田んぼから去って行く時 おれはどうしてこんなに お前がいとおしいのだろうか 一時間も坂道を登って来て どんなに疲れていても お前のそばへ来ると まずお前をひとまわりしなければ腰を降ろさない この足でふみしめ この目で見つめ お前と言葉を交さないうちは おれは腰を降ろさない おれは何時もお前と一緒に居たいのだ どんなに遠くへ出稼ぎに行っていても どんな山奥へ炭焼きへ行っていても お前のことをわすれたことがない 今から四十年程前おれが生活者として物心ついた頃 米だけでも買わなくともいいようになったら どんなに生活が楽になるだろうか 二反の田の外にもう二反あったらと思っていた あれから田になる土地を探し求めて来た ふとある日 開拓地の片隅にお前だけが田になる日の 夢をいだいて取り残されていた めぐり合ったその日から おれはお前に 命をかけようと思った
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