ok.p.52 大地よ世界の母よ
風がうなる 嵐がやってくる……… 台風の予告の中で おれとおまえはめぐり合った 花粉のように 農民が土から離されて 鉄筋コンクリートの中の 鉄板の上へ移植されてゆくとき おれとおまえはめぐり合った 標高一、五〇〇メートルの 守門山腹に開ける高原 五十町歩の開拓地の一角に取り残された 二町五反のお前だけが わびしく夢を秘めていた 鉄板に根を張って行く力のない 孤独なおれは 揮然と 山また山のなか 荒涼として果てもない 孤独なおまえの中へとけ込んだ 二町五反の大地よ 処女地よ いま おまえのからだを ブルドーザが はいまわっている 黒い土は掘り返されて 秘められたおまえの夢を堀り返している おれのあるだけの汗を おまえにしみ込ませる時 もう おれは おまえから離れることが出来ないであろう 嵐の海原の小舟のように ゆれながら ゆれながら 大地よ処女地よ おまえは世界の母となれ 春ともなれば おまえの胸のふくらみに クローバーの花を咲かせよう 秋のタ映えに黄金の波をうたせよう
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