ok.p.66

 

今日は、そして明日は

(草野比佐男氏に) (一) 今日は 村の女は 男が腕を貸して腰を抱えてやらなければ 眠れないと言う 男なら誰だって しっかりと妻を抱きしめて放したくはない でも積雪四メートルの単作地帯 雪だるま式にふくらむ家計費 五反百姓のおれたちには 冬は出稼ぎのほか道はない 山また山の 山の中の村 豚も飼った 牛もにわとりも飼ってみた 残るものは借金だけだった 夏は 百姓のかたわら 炭やきもした 近くの土方にも出た わらじを買ってくれる者の居なくなった 今 冬は出稼ぎのほか道がない 自分一人だけ ならムシロをかぶって 明日を待つことも出来るだろう でも 育ち盛りの子供たちがある限り 裸で置くわけにはいかぬ おれたちの負けであるとは知りながら 涙をのんでの出稼ぎだ (二) 明日は スモッグで緑を殺し 造るより壊すことに金のかかる 大都会の立体交差道 おれたちは今日これを造っているが 明日は村の農道を造らねばならぬ 大都会のド真中でトラクターを作るより 村の中で 農閑期に 耕す人たちが作れば良いのだ 他国の肉をたらふく喰らって 豚肥りしているやつらのどでっ腹へ 堆肥ホークをぶっ刺して 明日は おれたちの山ヘ クローバーの花を咲かせねばならぬ 山の麓に笑い声をよみがえらせるために 黄金の波を打たせるために
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