ok.p.70 

夜汽車

みぞれが窓を流れる 夜汽車は コト コト コト コト と 悲しみを抱いた客も 喜びを抱いた客も コト コト コト コト と 運ぶ 沈んで行く夜汽車の中 向こうの席だけがいやにはなやいでいるのは 十人程度のホステスたちの忘年旅行の帰りなのか ママさんを囲んだ 乾いた朱の妖宴 左となりの 四五人のつぶやき うちの孫みたいな若者に ぼろくそに言われてこき使われるなんて 親にだってあんなことを言われたことがないのに と ごついしわだらけの手で 盃を交しながら顔をつき合せている 明日からは くやしさと腹立たしさと 疲れで 音も立てず 飯場のすみっこの冷たいふとんの中へ入らなければならない 車窓にミゾレがぶつかって流れる 汽車は情容赦なく それらの人たちを 確実に目的地へ送り届ける
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