おやじ
高い足場の上で
ねじり鉢巻の若造がどなっている
おやじ  丸太の先をもっと高く持ち上げろよ
二十メートルもある足場の上では
腰のまがった六十おやじは
あせればあせるほど
体が堅くなって動かない

おやじ
マンマは食って来たんだろうな
だったら  もうちょっとやってもらえんかなあ
おれが困るで
昼過ぎから生コンが来るんだぜ
一丁前の金はもらっているんだろうなあ―

今日は鉄筋屋の手もとだ
低い所から高い所へ
重い鉄筋を支えて細い結束線
さっき教えたばっかりだろう
たてに二本横に五本
ホレそっちのアンカは三本置きに下へ向けれ
と言っただろう
それ  それ  そっちを早くしばらんとこっちが
下がってしまうがな
下手な操縦士のロボットのように
おやじは
体がからからに乾いて
もう涙さえ出ないのだ

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